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第七話 章生の計画
章生は麻雀に集中していなかった。というのもいま章生は悩んでいることがあったのだ。
(家政婦を雇って綺麗に片付いた。準備は整ったな……。仕方ないよな、純子。許してくれ)
井之上家の最も大きな収入は純子の作家活動によるものだった。駅から離れているとは言え都内にここまで大きな家を持てるのは妻である純子のおかげであり、陶芸家の章生だけでは到底無理である。つまり、維持が不可能なので売りに出す計画なのだ。
その事を子供たちにはまだ話せてない。子供たちにとってはここが母との一番の思い出の場所であり、そこを手放すことになりそうだという事をどうしても言い出せないでいたのだ。
(物より思い出というが、それはこれからも思い出を増やしていける関係があってこそであり、あの子たちにとって死んでしまった母との繋がりは思い出だけなんだ。それをどうしたらいいか……)
章生はそんな悩みを誰にも打ち明けられずにいた。アトリエには自分しかいないし、唯一の相談相手であった妻はもういない。
(宏の言う通りだな。死んでからでは何もかもが遅い。なんでおれはこうなんだろうな。だが、なんとかするしか……ない)
子供2人はまだ大学受験や高校受験を控えてる。うちにはお金がありませんなどというわけにはいかないのだ。子供たちの将来、とくに進学のことを考えたらここは手放して、自分たちは借家にでも引っ越しすべきである。
3人家族なら小さな部屋を借りて暮らすことも可能だ。思春期なのでプライベートという問題はあるがそこは我慢してもらうしかないだろう。とにかく、陶芸家の章生には定期的に入る収入というものが無かった。なのでこの家から出ていき、家を貸して家賃収入を得るという方法を取るべきだと考えたのだ。
(この計
50.その6第二話 諦められるのも才能「なんですかその、ネット対戦というのは」「紅中は電子機器に疎いの半端じゃないよね。漫画作りの時しかメカ触らないんじゃない?」「失礼な、私だって携帯電話を持っていますよ」「それ、何に使ってる?」「通話とメール。あとたまにカメラ機能を使いますね」「ほら。それ最低限の使い方じゃん。カンタンケータイとかいうやつで大丈夫なんじゃない?」 そう、紅中は味音痴の他にも実は機械音痴という欠点があるのだ。まあそれは他のスタッフがカバーできたり、紙などを使うことで問題が解決するから大丈夫っちゃあ大丈夫なのだけど、しかし今どきの26歳にしてはあまりにも時代遅れではある。「漫画描く時はiPad使ってるんでしょ? 少しずつでも機械化に慣れてかないと時代に取り残されるんじゃない?」「むむむ……! 来年の今頃もまだ機械を使えてなかったらマウント取って下さい」「なんで?」「シロ子は私と1歳差でしょう。私も27歳になるまでには電子機器に慣れておきますから」「チュンは変わらない気がするけどなぁ」「人は成長します……!」 すると、紅中とシロ子のやり取りを聞いていた錦野流石がケラケラと笑い出した。「面白い。クク……チュンさんだっけ? 面白いなアンタ。おっとりした見た目してる割には気は強いんだね。それに何? 漫画描いてるの? 今度見せてよ」「今度と言わず今すぐにでも。今日持ってきてますので」「ぜひ読んでみて。チュンが描いて私がアシスタントをしてるの」とシロ子も漫画をオススメしてきた。 すると「私読みたい」と別室でテレビを観ていた今日子が漫画の話に反応してきた。「と、言っ
49.ここまでのあらすじ『特化家政婦専門事務所 アズマ』には接待麻雀の専門家が揃っている。その中でも成績優秀なエース家政婦が『紅中』。 紅中はいつもその接待麻雀の腕で依頼主の心を掴み契約を取ってきた。はたして次はどんな依頼が紅中を待ち受けるのか――【登場人物紹介】紅中ほんちゅん 本名は真中紅子。チュンの愛称で親しまれる成績優秀な『アズマ』のスーパーエース。趣味は同人誌作りでプロ顔負けの漫画を描く実力者。ビジュアル的にもイイ女だが味音痴なのが玉にキズ。いつか同人誌フリマで壁サークルになるのが夢。東あずま 本名は東正美。アズマの所長。口では厳しいことを言うがその実は面倒見が良くて母性に溢れた優しい女性である。緑發りゅうは 本名は阿智山緑。アズマの給料泥棒。基本的に事務仕事専門。頭脳明晰で高学歴。身長144センチで高い所に届かない。しかも人見知り。家政婦をやるには少し向いてない女。麻雀は得意でどんなルールの麻雀も器用にこなす。ミナミみなみ 本名は片岡南。アズマに所属している家政婦。成績はそこそこ優秀で紅中の次くらいに稼いでくる。紅中の成績にあやかって最近は長い髪をお団子にした。シロ子しろこ 本名は白田雪子。アズマ所属の家政婦。出勤日数は少なめで実家暮らしの27歳。アズマに出勤してない時は本を読んだりSNSをしたりでゆっくりしてる。たまに紅中の同人
48.サイドストーリー2イノウエ順子短編集その2大妖怪 井之上家との契約を変更したその日、紅中はイノウエ順子短編集を読んでいた。 (このストーリーは短いからほんのオマケみたいに書かれて注目度も低かったですけど。書いてある内容はすごく高度で『わかる人にはわかる』という名作でした。これを章生さんは読んでないんですかね? それともまるっきりフィクションだとでも解釈したんでしょうか。私にはこの物語は本当は純子さんのエッセイなんじゃないかと思うんですが。だって、輪ゴムで縛るとか。右腕の袖にひっかかって倒れるとか、リアルすぎるんですよね。……これきっと実話なんでしょうね。…………大妖怪。フフフッ)◎大妖怪著:イノウエ順子 その店には通称『妖怪』と呼ばれる常連がいて、あの手この手で勝ちに来る強敵であった。 その日、妖怪は私の下家にいた。「リーチだ」 妖怪からの先制リーチ。 すると妖怪の袖口が手牌に当たってしまい、右手側3枚の牌が倒れてしまう。西西九 西は場に2枚切れだ。「あははは! じいさん! チートイツか」「捨て牌に六萬も捨てて引っ掛けてたのに見えちゃったなあ!」と、お客2人は大笑いしていたが、私はあることに気付いていた。 妖怪のサイドテーブルに輪ゴムがあるということに。
47.第九話 手作りクッキー 翌日―― 今日は日曜日なのでまた紅中は井之上家へとやってくる。家事をするためではなく麻雀のメンツとしてだが。ピンポーン──────「さて、私は派遣メンバーではありませんので。今日は他にもなにかできないかと思い、クッキーを焼いてきましたよ!」「「えぇ?」」「あれ、クッキー苦手でしたか……? 台所にクッキーの缶が複数ありましたのできっとクッキーは好きなはずと読んだ上で作ってきたのですが」 相変わらずの観察力である。その読みは当たっていて、井之上家は全員クッキーが好きだ。……美味しいクッキーならば。というのが前提ではあるが。「い、いや、好きさ。全然嬉しいよ。チュンさんありがとう。今日はそれ食べながら麻雀しようよ、なっ? 士郎」「そそ、そうだね〜。それがいいね」(どうすんだよ。兄ちゃん)(どうもこうも、食うしかないだろ。大丈夫だ。4人で分けて食えばそんなたいした量じゃないだろ。牛乳もコーヒーもあるからごまかしながら食うぞ)(マジかよ〜。砂糖と塩間違えるとか古典的な失敗してたらさすがに食えないからね?)(さすがにそれはないだろ) 章生も明らかに(まいった)という感じの顔をしていたが、そういうのもすぐに察してしまう紅中なので章生は一瞬で表情を戻して笑顔で「ありがとうございます!」と言いクッキーを受け取った。すると……(うお! なんて量だ。すごいたっぷり作ってきたな……。これは事件だぞ) チラリと息子たちの
46.第八話 大掃除は終わるもの「ねえ、チュンさん」「なんですか」「察してると思うけど、我が家は貯金する方針になったから、多分今後チュンさんとの契約は切るか、続けるにしても今までみたいに土日祝全部ではなくなると思う。こんなに世話になっていて申し訳ないんだけどさ」「ああ、なんだ。その事ですか。フフフ……いいんですよ。それでこそ掃除した甲斐がありました。この家で私の担当した仕事は主に『大掃除』です。大掃除は必ず終わるものですから。仕事が終わったんだなぁ。と思うのもまた良いものです」「そういうものか……」「はい」「でもさ、おれに麻雀を教えるのはまだ終わらないというか、始まったばかりだろ。この師弟関係は続けて欲しいんだ。頼むよ」「あ、私『師匠』だったんですか。柄じゃないと思うのですが……」「呼び方はなんでもいいよ。『先生』でもいいし」「どちらも似合いませんので、私のことはただの『チュン』でよろしくお願いします」「たく、チュンさんらしいなぁ。本名は何ていうの。そろそろ教えてくれよ」「真中紅子(まなかべにこ)です。紅に染まる朝焼けとともに誕生したそうで、それが名前につけられました」「紅子! かっこいいな、紅子」「そ、そうですかね。紅に染まる朝焼けって雨が降る前ぶれですからあまりめでたい感じしないんですけどね。私の親はそんな事知らなかったみたいですが」「そうなんだ。それって迷信とかじゃなく科学的な理由があるの?」「はい、朝焼けの空が極端に赤く染まる時は悪天候の前ぶれ。それは科学で証明されています。まず、空が赤くなる基本的な理由ですが。これは『レイリー散乱』と言われるものです。通常、太陽光は白く見えますが実際にはさまざまな波長の光が混ざっています。光の三原色を混ぜると白になるでしょう。太陽光が白に見えるのはそのためですね」「ふんふん」「それでですね大気中の空気分子に光が当たると、波長の短い青い光は散乱されやすく、四方八方に飛び散ります。一方、波長の長い赤い光は散乱されにくく、まっすぐ進みやすいんです」「へえ、色によって進みやすさとか拡散するとか違うんだ」「そうなんです。すると日中は光の通り道が短いので青い光が散乱して…「空が青く見える! そうか、だから青空なんだ!」「正解です! 宏さん、さすがですね! また、朝や夕方は光が大気を長い距離を
45.第七話 心変わりするタイミング私の手牌 南家 1巡目 16000持ち 三四伍伍六②②②④56東南 西ツモ「これ、持ち点的にも状況的にもメンゼンで仕上げて高打点を作りたいから西から切るんです。とにかく絞りたい時は西ですら永遠に切りませんし。では、問題です。宏さんは私の2巡目って思い出せますか?」「えっ……と。南だったような……あれ?」「そうです! 最高です! しっかり記憶してますね!」「いや、待ってよ。これダブ南だよね。なんで南捨ててオタ風の東が手にあんの? 逆じゃん?」「エクセレント! 素晴らしいです。そこ、質問できるの素晴らしすぎます! さすが天才の息子ですね。あ、嬉しいな。教え甲斐があります」「えへへへ。それほどでも……で、なんでなの?」「東を鳴かせるためです」「?」「自分にチャンス手が来た場合は上家のメンゼンを崩すべきなんです。ひとつ鳴いたプレイヤーは2つ3つ鳴くのも同じ事ですからポンポンと仕掛けます。すると、次にツモ番になるのは?」「自分だ……」「そう! つまり、さっさと切ることもできた東をキープし、鳴けそうなタイミングを見極めてから場に放り。ポンさせる。すると鳴きが入り、次のツモ番がすぐにまた来る」「そうか。手が整ってないうちは鳴きにくい。そもそも役牌が重なってないかもしれないし、役牌こそあってもドラが重なってないから鳴く価値が低かったりと仕掛けていくかどうかに決心がつきにくい。だからあえて後で捨てることで鳴きやすくしてやるんだ」「そうです。また、巡目が進んでいるからそろそろ前進するための特急券を購入しなければという気にもなります。その『心変わりするタイミング』を見計らうんですよ。ただ、上家にアガリを与えてはいけませんから絶妙なんですけどね」「心変わりするタイミング…&h